一般的に、医療機関の人事労務管理は難しいと言われています。一般企業において人事・総務の経験がある人を「事務長」として雇用しても、なかなか現場に馴染めずに、職員や経営者との対立を招くこともよくあります。
それは、本来対等であるべき労使の力関係が、医療現場においては、労>使となることが理由のひとつです。その原因は主に、雇用する職員を、医療現場の近隣に住む、看護師等の有資格者から選ぶ必要があるためです。この2つの条件を満たす母数自体が少ないために、労働者の希少価値が高まり(→権利意識が高まり)、労使の力関係の逆転が起こります。
そのような特殊性をもつ医療機関において、盤石な組織を築くために必要なことは主に以下の2つです。
①明確なルール/管理体制を定めること
②管理者が基礎的な労務管理知識を有すること
そこで、このブログを通じて、医療機関の管理者の方が現場で実際に発生した問題を解決する助けになるような情報を定期的に配信していきます。人事職員の方も参考になることがあると思いますのでご活用ください。
一般的な会社のパートと異なり、医療機関においては「週1回午前中のみ外来勤務のため来てもらっている先生がいる」といったケースは多いと思います。
「その先生は他に所属する主の病院があるし、うちの病院では年次有給休暇は与えなくても良い」とお考えになる病院経営者の方が一定数いらっしゃいます。この判断は正しいのでしょうか?
非常勤医師も、職員区分においてはパートタイマーに該当します。そこで今回は、「パートタイマーへの年次有給休暇付与」と一般化して内容をまとめたいと思います。
■非常勤医師に対して年次有給休暇付与しなくても良いのか?
労働基準法において、パートタイマーに対して年次有給休暇を付与しないことは認められていません。労働基準法39条において、【雇い入れ後6ヶ月間継続勤務し、その期間の出勤率が8割以上になった場合には一定数の年次有給休暇を与えなければならない】と定められています。
この規定は、正職員のようなフルタイムの職員のみを対象にしているわけではなく、パートタイマーも対象としています。従って、非常勤医師に対して年次有給休暇を付与しないことは違法といえます。
■非常勤医師への年次有給休暇の付与の仕組み
ただし、週の出勤日数が少ないのにフルタイムで勤務する正職員と年次有給休暇の付与日数が同じ、というのも確かにおかしな話です。そこで、パートタイマーは、週の所定労働日数に応じて付与日数が定められています。(年次有給休暇の比例付与といいます)
〇通常の正職員の付与日数
〇パートタイマーの比例付与日数
なお、「週所定労働日数」は雇用契約書の日数を基準にするのが原則です。ただし、実態と雇用契約書の内容に乖離がある場合は、実態が優先されます。
また、医療機関においては女性職員も多いため、出産・育児・介護により正職員からパートタイマーに働き方を変える職員も少なくありませんが、その場合は勤続年数は通算され、リセットされません。通算された勤続年数に基づき、付与日時点の働き方で付与される日数が決定されます。
■付与しなかったらどうなる?
パートタイマーに年次有給休暇を付与しない場合、労働基準法違反となり、罰則として6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられることがあります。また、 対象となる労働者1人につき1罪として取り扱われるので、対象職員が多い場合、大きなリスクに繋がります。
■まとめ
働き方改革により医師をはじめとする職員の権利意識が高まり、管理するのに苦労されている病院経営者の方は多いかと思います。確かに、その分高い報酬を支払っているのだから積極的に働いて欲しいというお気持ちは理解できます。ただ、このご時世、やはり優秀な人材を採用し、長く貢献してもらうためには、病院として法律をきちんと守り清廉潔白な運営をすることが求められています。人材の回転が速く、求人・採用費用や教育費用等に必要以上にお金をかけないためにも、最低限の法律は守って経営できたら何よりです。