一般的に、医療機関の人事労務管理は難しいと言われています。一般企業において人事・総務の経験がある人を「事務長」として雇用しても、なかなか現場に馴染めずに、職員や経営者との対立を招くこともよくあります。
それは、本来対等であるべき労使の力関係が、医療現場においては、労>使となることが理由のひとつです。その原因は主に、雇用する職員を、医療現場の近隣に住む、看護師等の有資格者から選ぶ必要があるためです。この2つの条件を満たす母数自体が少ないために、労働者の希少価値が高まり(→権利意識が高まり)、労使の力関係の逆転が起こります。
そのような特殊性をもつ医療機関において、盤石な組織を築くために必要なことは主に以下の2つです。
①明確なルール/管理体制を定めること
②管理者が基礎的な労務管理知識を有すること
そこで、このブログを通じて、医療機関の管理者の方が現場で実際に発生した問題を解決する助けになるような情報を定期的に配信していきます。人事職員の方も参考になることがあると思いますのでご活用ください。
【社会保険未加入のリスク】
最近、この4月から新卒で働き始めた方々と食事する機会があり、
「なんか5月から給与激減したんだけど」と皆さん言っていました。
「そういうものだから」と仕方なく享受している社会保険料ですが、看過するには額が多き過ぎるので少し理解を深めていただければと思います。
一方、社会保険料は経営者にとっても「法定福利費」として大きな費用となります。
加入義務を知っていながら無視することは大きなリスクを伴うので、現在の社会保険徴収に関する年金機構の動向も併せて説明したいと思います。
今回は、
【1】社会保険料とは?
【2】社会保険に加入するメリット(従業員目線)
【3】社会保険に加入しなければならない基準
【4】社会保険未加入のリスク
についてまとめていきます。
【1】社会保険料とは?
まずは、言葉の整理です。
分類が難しい保険として挙がるのが、
・社会保険
・健康保険
・介護保険
・厚生年金保険
・雇用保険
・労災保険
・労働保険
の7つかと思いますが、以下のように分類されます。
■社会保険=健康保険(介護保険)+厚生年金保険
■労働保険=雇用保険+労災保険
すべて拠出型保険(保険料を徴収される)となりますが、介護保険の徴収は40歳~64歳の従業員のみが対象であり、労災保険は従業員の負担なし(事業主負担のみ)です。
計算方法はざっくりいうと、
【月給×保険料率】となり、
それぞれの料率は、
・健康保険:4.92%
・厚生年金保険:9.15%
・雇用保険:0.3%
(2021年6月協会けんぽ東京支部の場合)
となります。
足し算すると、約15%程が社会保険料として天引きされているのです!
ちなみに、冒頭の新社会人の方が5月から手取り額が減った理由は、従業員として控除される以下3つの保険料の内、 ①健康保険 ②厚生年金保険 ③雇用保険 料率の高い「健康保険」「厚生年金保険」が、加入月(4月)の翌月から徴収される仕組みだからなのです。 たしかに、何も知らずに5月から約15%給与が減ったら驚きますよね!
【2】社会保険に加入するメリット
15%という数字だけをきくと損した気分になりますが、負担に応じた給付がいろいろと用意されています。
代表的なものに、健康保険の傷病手当金や出産手当金が挙げられます。
・傷病手当金は、業務以外のことで病気や怪我をして会社を休んだ場合に、給与の3分の2が補償される制度です。インフルエンザ等で休んだときも使えます。
・出産手当金は、出産前後に会社を休んだ場合に、給与の3分の2が補償される制度です。
病気・ケガ・出産等でどうしでも出社できない期間に、安心して休みを取りやすくする「従業員を守ってくれる」制度といえます。
また、実感は難しいですが厚生年金保険に加入することで将来受け取る年金額を増やすこともできます。
【3】社会保険に加入しなければならない基準
以下の①②の基準を両方満たすと社会保険に加入します。
①1週間の所定労働時間が正社員の4分の3以上であること
②1ヶ月の所定労働日数が正社員の4分の3以上であること
雇用契約書等に記載されている所定労働時間等がポイントになりますが、実態としてどのような働き方をしているのかで総合的に判断されます。
【4】社会保険未加入のリスク
社会保険の加入基準を満たしているにもかかわらず加入していない場合には、事業主に対して過去に遡及して加入することが求められます。法律によって2年間遡及されることになり、過去の社会保険料の支払いも一気に発生してしまいます…
もし対象となる従業員が既に退職してしまい連絡が取れないとしたら、それはもう想像するだけで最悪の状況ですよね。
「とはいえ、うちが加入していないことはバレないっしょ!」
と高を括っている方もいらっしゃるかもしれませんが、現在の年金機構の動きをみると非常にリスクが高いです。
この3月に日本年金機構が「令和3年度計画」を出しました。
https://www.nenkin.go.jp/info/johokokai/disclosure/nendokeikaku.files/R03.pdf
そこには、【令和2年度からの4年間で未適用事業所の解消に集中的に取り組んおり、令和2年度時点で実態確認に至っていない法人事業所については、令和3年度末までに実態解明することを目指す】といったことが明記してあります。つまり、今後年金機構は更に非適用事業のチェックに本腰を入れて動いていくということです。
対象でありながらまだ未加入の方、すぐに行動しましょう!