2022年は電気代や食料品、生活用品が高騰し、日常生活にも影響が出てくるようになりました。
先日スーパーに夕飯の食材を買い出しに行った際も、店員のおばさまに「本当値上がりがすごいのよ!あれ見てみなさい。あのマヨネーズ125円って書いてあるじゃない、あれ数か月前まで100円だったのよ?この先が本当心配だわね・・・」と話しかけられましたが(笑)、商品陳列中の店員さんがお客さんの僕に愚痴りたくなるほどの状況のようです。
価格高騰に対応し、従業員の生活をサポートするため「インフレ手当」を支給する企業が増えてきました。
今回は、インフレ手当の具体的な内容、支給する際の注意点についてお伝えしていきます。
支給を検討している経営者や人事担当者の方々の参考になればと思います。
世の中の物価高による影響
日本は長らく、デフレ(モノの値段が上がらない状態)から抜け出そうとしてきました。
しかし2022年には、新型コロナウイルスやロシアのウクライナ侵攻による供給不足(需要過多)、歴史的な円安により物価が急激に上がり、インフレ(モノの値段が上がる状態)が進みました。
総務省が発表している「消費者物価指数」をみてみると、2022年4月の物価は1年前の同月(2021年4月)と比べて、総合指数では2.5%上昇しています。
この価格高騰は今後も続くとみられ、モノの値段は上がるのに給料は上がらず、家計が圧迫される…という悪循環に陥りつつあります。
インフレ手当とは
こうした状況を受け、社員の不安を取り除きモチベーションをアップさせようと、2022年から企業が取り入れ始めたのが「インフレ手当」です。
国内企業1248社を対象にした帝国データバンクの発表によると、2022年11月の時点では、
・すでに支給した企業:6.6%
・支給を予定している企業:5.7%
・検討中の企業:14.1%
となっています。
合計すると26.4%となり、およそ4社に1社がインフレ手当の対応を行っていることになります。
支給方法は大きく2パターン
インフレ手当は企業が自発的に実施する制度のため支給方法は様々ですが、大きく2パターンにわかれます。
それぞれの具体例を見ていきましょう。
①給与に上乗せ
1つめは毎月の給与に上乗せするパターンです。
家電量販店のノジマは、2022年7月から、毎月の給与に1万円を上乗せしてインフレ手当を支給しています。
部長級以上の社員を除く、正社員と契約社員が対象で、支給期限は未定です。
他にも、光学系部品を手掛けるオキサイドという企業は11月から役員を除く社員対象に一律3万円、餃子王将を展開するイートアンドホールディングスは10月から社員・契約社員を対象に一律8,000円の支給を開始しています。
②賞与、一時金
2つ目は、賞与や特別な一時金として支給するパターンです。
IT企業のサイボウズは、7~8月に特別一時金としてインフレ手当を支給しました。
契約社員を含む直接雇用している社員へ月の就業時間に応じた金額を設定しています。たとえば、1ヶ月に128時間以上勤務は15万円、96時間以上128時間未満は12万円、といった支給形態です。
他にも、ケンミン食品は社員と契約社員を対象に、7月の賞与とあわせてインフレ手当を支給しました。支給額は、在籍1年以上の社員・契約社員は一律5万円、それ以外は在籍日数に応じて1~3万円です。DIY製品のネット通販を行う大都は、全社員へ一律10万円を支給しています。
また、クラウドサービスの開発・提供を行うトヨクモは、2023年度の固定賞与を1ヶ月分引き上げると発表しています。
「インフレ手当」導入時の注意点
「社員のためにインフレ手当を支給しよう!」と動き出す際には、いくつか注意点があります。
社員を想っての厚意であるにも関わらず、場合によっては「ありがた迷惑」になってしまう可能性もあるため、事前に確認して、抜け漏れがないようにしましょう!
注意点1:所得税、社会保険料に影響する
インフレ手当が支払われることで、所得税や社会保険料の額に影響する可能性があります。
●所得税への影響
所得税は所得が増えるほど税率が上がっていく累進課税です。(下記表参考)
たとえば、もともとの年間の所得金額が3,300,000円〜6,949,000円の範囲内であった人がインフレ手当をもらった結果、所得金額が6,950,000円〜8,999,000円の範囲内になった場合、税率が20%から23%に上がります。
支給方法の如何に関わらず、所得の変動により所得税に影響してきます。
●社会保険料への影響
社会保険料は、給与等の平均額をキリのいい数字に区分した等級表に当てはめた標準報酬月額をもとに計算されます。
インフレ手当を給与に上乗せして支給する場合、毎月の報酬が上がり下の表の等級が上がると、保険料の金額も変わる可能性があります。
一方、賞与や一時金として支給する場合には、一部の報道では、「特別手当など一度きりの支給で臨時的に受け取るものであれば社会保険料の計算対象外になる」(=社会保険料には影響しない)とう意見も散見されます。
しかし、年金事務所によると、「物価上昇のため生活費を補填する手当は、一時的であっても、従業員が負担すべきものに対する補填となるため、報酬に含めるように」(=社会保険料には影響する)とする見解もあります。
この点は、判断が難しい部分でもあるため、導入する際には必ず専門家に相談するようにしてください。後から、年金事務所の立ち入り調査で指摘を受け、過去に遡って保険料を徴収されるリスクがあります。
注意点2:扶養の範囲内で働く人の上限額
扶養関係にある場合の上限額にも注意しましょう。
世帯主の扶養に入っている場合、配偶者の給与所得が103万円を超えると所得税が発生し、130万円を超えると社会保険の扶養から外れます。いわゆる103万円の壁、130万円の壁というものですね。
詳細は割愛しますが、インフレ手当も課税所得に該当するため、いずれかの壁を超えないように勤務している職員がいる場合は要注意です。
実際に、インフレ手当を支給しているサイボウズ社もインフレ手当を辞退することも選択肢に残していたそうです。
注意点3:「給与に上乗せ」の場合、賃金規定改定を検討する必要も
毎月の給与に上乗せして継続してインフレ手当を支給する企業は、賃金規定(就業規則)の改定を検討する必要があります。
賃金規定とは、賃金の計算方法や支払い方法、支払期日等を記載したもので、就業規則のなかの1つです。
就業規則には、必ず記載しなければいけない絶対的必要記載事項と、ルールを定める場合に必要な相対的必要記載事項があります。「賃金の計算方法や支払い方法」は絶対的必要記載事項に該当します。
つまり、インフレ手当を毎月の給与に上乗せする場合、給与として支払う項目が増え、計算・決定方法が変わるため、賃金規定の改定が必要となるのです。
なお、臨時の措置としての定額の一律支給であれば、賃金規定の改定までは不要です。
喜んでもらえる「インフレ手当」を
急激なインフレに給与の上昇が追いつかず、家計が圧迫される…という世間の声に応えてできたインフレ手当。
経営者も会社経営が苦しいなかで、従業員に手当を支給するのは中々難しい選択ではあるかと思います。ただ、そのような大変な時期だからこそ、従業員を想って支給したインフレ手当は、従業員の満足度を上げる手段として有効に働くのではないかと思います。
実際に、私の周りでも、「自分の会社はインフレ手当がもらえるんだ!」と周りの人に嬉しそうに自慢している方を見る機会が増えてきたように感じます。
従業員のモチベーションが上がってより一層仕事に集中してもらえれば、会社としても嬉しいことです。
ただ、先ほど述べたように、税金や保険料、就業規則についてなど、導入にあたって注意する点も多々あります。きちんと従業員に説明をし、理解を得たうえで、会社も従業員もwin-winになるように実施できたら何よりです。
給与に関することは、トラブルの種にもなりやすいため、是非適宜専門家に相談して進めるようにしてください(^^)