BLOG ブログ

採用のために従業員の給与を引き上げるのは効果的?

採用のために従業員の給与を引き上げるのは効果的?

一般的に、医療機関の人事労務管理は難しいと言われています。一般企業において人事・総務の経験がある人を「事務長」として雇用しても、なかなか現場に馴染めずに、職員や経営者との対立を招くこともよくあります。

それは、本来対等であるべき労使の力関係が、医療現場においては、労>使となることが理由のひとつです。その原因は主に、雇用する職員を、医療現場の近隣に住む、看護師等の有資格者から選ぶ必要があるためです。この2つの条件を満たす母数自体が少ないために、労働者の希少価値が高まり(→権利意識が高まり)、労使の力関係の逆転が起こります。

そのような特殊性をもつ医療機関において、盤石な組織を築くために必要なことは主に以下の2つです。

①明確なルール/管理体制を定めること
②管理者が基礎的な労務管理知識を有すること

そこで、このブログを通じて、医療機関の管理者の方が現場で実際に発生した問題を解決する助けになるような情報を定期的に配信していきます。人事職員の方も参考になることがあると思いますのでご活用ください。

では早速、今回のテーマに入ります。

【採用のために従業員の給与を引き上げるのは効果的?】

医療業界では、看護師人材の争奪戦が常態化しています。その理由は、需要に対して人材の供給が追い付いていない状況が続いているためです。

【需要 例】
・一般診療所の数は増加傾向(2019年には過去最高の診療所数を記録)
・高齢化による看護ニーズの急激な高まり 等
【供給 例】
・高い離職率(理由:夜勤が辛い、休暇が少ない、賃金が安い、出産・育児等)
・人材が都市部集中による地域間の看護師数の偏り 等 

この需給関係のアンバランスにより、その地域における看護師等有資格者の価値が高まり、争奪戦が起こっています。

そこで各医療機関は、他との差別化を図るため、以下の施策を講じることがあります。
・福利厚生を充実させる(食堂の充実化等)
・休日を増やす
・ 給料水準を引き上げる 等

施策の中でも、特にインパクトの大きい方法は【 給料水準を引き上げる 】でしょう。

確かに、既存の従業員も喜び、かつ採用も強化できる方法ではありますが、計画なしに給料を上げることは非常に危険です。無計画な引き上げは、かえって大きな労務トラブルに発展し、離職者を増やしてしまうリスクもあります。

そこで今回は、給料水準を引き上げる際の注意点をまとめたいと思います。

■ 給料水準を引き上げる際の注意点
【1】賞与への影響
ある医療機関では、給料水準を一律で引き上げた結果、予め就業規則で定め周知していた(従業員と約束していた)賞与金額を経営上保障できなくなり、結果として理事等の経営陣の報酬を大幅に引き下げることとなりました。本来、業績の調整役である賞与ですが、基本給を上げることによりその賞与に経営を圧迫されてしまったのです。賞与は従業員にとって高い関心事項であるため、経営者の一存で変更することは難しいです。
【2】退職金への影響
多くの医療機関では、「退職金額=基本給×一定の係数」という計算方法を採っています。つまり退職金額には基本給の金額が影響します。ところが、給料水準を引き上げる際に、後に現職の職員が退職金を受け取る際の人件費を考えておらず、退職金額が想定外の大きな支出になってしまい経営を圧迫するうというケースが発生しています。退職金も従業員にとって高い関心事項であるため、経営者の一存で変更することは難しいです。
【3】既存職員への影響
給料水準の引き上げを全職員対象に行うのであれば問題ないですが、経営の観点から対象者を限定するケースもあります。(今後医療機関を支えてくれる20~30代を中心に手厚くするという動きが多いです)また、採用強化が目的であるため、求人の際の給料水準を既存職員より上げるというケースさえもあります。このように、特定層のみ給料の引き上げを行うと、不公平感が生まれ職員が離れるリスクがあります。最悪の場合、既存職員との間で支給総額の逆転現象が起こったケースもあります。経営者が思っている以上に職員間では給料明細を見せ合うことが多いため、「知り得ないであろう」と高を括って行動するのは避けるべきです。

では、上記注意点の対策はあるのでしょうか?
各影響を最小限にする方法を紹介します。

■ 給料水準を引き上げる際に講ずべき対策
【1】事前に影響を具体的にシミュレーションする
給料水準を引き上げることにより、ご自身が経営する病院・クリニックで現在運用されているルール、予算計画、職員の感情等へどのような影響があるのかを具体的にシミュレーションします。様々な角度から実際の数字を用いて試算を重ね、数年先の収支バランスまで確認した上で実行するようにしてください。
【2】就業規則(退職金規定、給与規定含む)を確認する
就業規則は組織における法律のようなものです。ここを無視して給料水準を引き上げるのは避けるべきです。給料水準の引き上げにきちんと対応した就業規則を作成し、然るべき手続きを踏んだ上で改定を行えば、いざという時に経営者を守ってくれます。また、就業規則は条文間に相関関係があるため、専門的な変更対応が必要となります。この点は現在契約している 顧問社労士に相談するのが良いかと思います。

新型コロナウイルスの影響で医療業界はより過酷な労働条件となり、人手不足が更に深刻化しています。人材確保も難しくなり採用に苦労されている経営者の方々も多くいらっしゃいます。だからこそ、きちんと計画した上で給料水準の引き上げを行うことで、職員の満足度も上がり、経営も改善し、患者様に提供する医療体制も向上し、三方よしな経営に繋がります。

CONTACT
お問い合わせ

人事オフィス桜井への
ご意見やご要望などは
お気軽に以下のフォームから
お問い合わせくださいませ。